「明日はクリスマスイブですね〜。歳世ちゃん、どこ行きます〜?」
「歳子に任せるさ」
「はぁいv辰伶は明日の予定は?」
「そんなものはない。だいたいクリスマスはキリスト生誕の日でキリスト教でもない者がなぜ喜ぶ?」
「まぁ〜、相変わらずの堅物〜」
「ほおっておいてくれ」
後ろから聞こえて来た会話に嬉しくなった。こいつ彼女いないんだ、って。
一ヶ月前位かな…灯ちゃん達と狂のマンション遊びに行った時、上の階からエレベーターで降りて来たあいつを見たのは。
一目惚れってゆーの?話しかけようとしたら一階に着いちゃって出来なくて、これっきりか…って諦めたんだけど、次の日学校で見かけて…信じてないはずの運命ってやつを感じたんだ。
何度も話しかけようとしたけど、オレらしくもなく臆病になって…いつもさりげなく近くにいることしか出来ない。
今も学食で背中合わせに座ってる。なんかきっかけないかな…。
「…る!ほたる!聞いてるのかい!?」
「ん?何が?」
「クリスマスのあんたの予定だよ」
「…なにもない」
「じゃあ決定だね!狂の家でパァ〜っと呑もうか!」
え…。クリスマスには頑張って話しかけてご飯でも…って思ったのに…まぁ、同じマンションにいられるだけでいいや。
「狂〜、来たよ〜」
「おぅ」
「灯ちゃん、クリスマスを狂と過ごせるなんてし・あ・わ・せv」
「私達もいますが…」
「あ〜、オマケオマケ」
「なんですって!?」
「はいはい。狂〜、酒たんまり持ってきたぜ〜」
「はい。おつまみ」
わいわい、がやがや…いつも通りのみんなで過ごす騒がしいクリスマス。
上の階にいるあいつはどんなクリスマスを過ごしてるんだろ。
もしかしたら、よく一緒にいる女二人といるのかな?
………むっ。
でも、どっか行くって言ってたし、一緒ってことないかも。それなら、一人?
まぁ、あいつにとってはクリスマスなんて普通の日と同じみたいだし、寂しいとか思わないんだろうな。
一緒に呑もう?って言ったら…流石に変だよね。
空になったグラスに酒を継ぎ足そうと瓶を傾けたけど…あれ?
「…ック。酒が無くなったわよ〜!誰か買ってこぉい!」
「嫌ですよ、寒い」
「だったら一発勝負!…じゃーんけーん…ほい!」
…あ。負けちゃった。
「ほたるの負け〜」
「たんまり買い占めて来いよ〜」
「寒いの、やだ」
「負けた奴に文句言う権利はありませんよ」
無理矢理コートとマフラー身につけさせられて外に放り出された。
もう真夜中だし寒い…さっさと買ってこ…。こんなときに限って何で最上階にあるんだよ…ちっと舌打ちしながらエレベーターのボタンを押した。
このマンションは25階建てで、ここは18階。今は6階の差さえ長く感じる。
ポン…ってエレベーターの扉が開いてすぐ乗り込んだ。
寒くて下を向いてたら「何階ですか?」って声かけられて、顔あげたら……あいつがいた。
うわ…どうしよ、凄く嬉しい。私服初めて見た。じゃんけん負けて良かったな。
「…あの?」
「あ、一階まで…ありがと」
そいつはこの寒いのにマフラー一枚しかしてなくて、手には財布一個。
たぶんこいつも下のコンビニに行くつもりだったんだ。
せっかくなんだし…何か話さなくちゃ。
……何かってなに?どんなこと?あぁ、もう早くしないと…。
ガクンッ!!
…え?オレが焦りだした時、エレベーターの電気が消えて動きが時止まった。
何も見えない程真っ暗…明かりは…あ、ケータイどこやったっけ?
オレはポケットを漁ったけど、それらしいものが見当たらない。…狂の部屋か…。
あいつも少しの間だからとケータイは持ってきてなかったみたいで、暗闇の中必死に非常ボタンを探してるみたい。
「…これか…?」
独り言の後、ぼんやりとしたオレンジ色の非常電灯が点いた。
その後、どうにかして今の状況を外に伝えようと緊急連絡用の受話器を手に取ったけど…やっぱり繋がらないみたい。
ゆっくりと戻してはぁ…ってため息ついたし。
「…繋がらない?」
「…あぁ、誰かに気付いてもらうまで待つしかないな」
誰も気付かなければいいのに。どんな状況でも、今夜一緒にいられるならそれでいい。
予想外の嬉しい出来事に久しぶりに心が高揚した。
なんか、一気に距離が近付いた気がして今なら普通に話せそう。
「…お前、どこかで見たことあるな」
「…そう?」
「……確か、学校…そうだ!お前嵯武雷高校だろう?」
「うん」
「よく、学食で見かけるぞ」
「ふ〜ん」
…会話終わっちゃった。やっぱなんか緊張する。でも、おれの事に気付いててくれて嬉しい。
「暖房も切れたようだ…流石に寒いな」
「…はい」
オレは着ていたコートを差し出した。
そいつは驚いた様に目を開いて、ぶんぶんと飛びそうな勢いで首を左右に振った。
「受け取れない!お前が寒いだろう!?」
「オレ寒いの平気だから」
「…でも…」
「着ないならここ置いておくね」
「!…っ、ありがとう…あったかいな」
ふわりと微笑んだそいつ見て寒さなんて感じないほど夢中になった。
「せっかくのクリスマスなのに…台なしだな。彼女も心配してるのではないか?」
「ん〜…たぶん怒ってそう。それに、クリスマスなんて普通の日だし」
「お前もそう思うか?友達からは変だとか硬いとか言われて来たが…一緒の考えをもつ人に会えて嬉しいな」
なんか、結構よく喋るね。もしかして、話してないと不安になるとか?
「オレとお前、気が合うかもな。オレは辰伶だ。ヨロシクな」
「…ほたる。よろしくね」
握手した手が熱い。少し前まで見てる事しか出来なかったのに。
聖なる夜に願いが叶った。
欲しかったものが手に入った。
サンタクロースやカミサマを信じてる訳でもない。
増してはキリスト教でもない。
だけど、このクリスマスプレゼントだけはありがたく貰っておくよ。
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クリスマスに間に合うように特急で書いたので・・・書き足りない
もっとほたるをうじうじさせたり、エレベーターの中で辰伶を焦らせたかったのに・・・
2007/12/24